実地試験実施基準(PTS)前書き編その4
今回も、PTSの中にある、Special Emphasis Areas、について書いてみます。
Wake Turbulence Avoidance --- 日本語で言うと「後方乱気流」といいます。揚力の発生する翼の上下面の圧力差によって、その後方に発生する気流の渦のことですが、大型機のそれは小型機を丸ごと飲み込んでしまう「横になった竜巻」みたいなもので非常に危険です。下の写真では分かりやすいように煙で見せていますが、普段は目で確認することができないものです。
その見えない危険なエリアを普段のフライトでどのように推測して、どのように避けていくのかというのが知識として大切な部分なのです。試験では口述で確認もするのですが、フライトの中で実際に大型機が来たときにどのように回避するのかという「ジャッジメント」を審査します。教科書に書いてある内容はあくまでもBook Knolwedgeです。それを普段の訓練、しかも大型機が飛び交うところで訓練しての「経験」でWorking Knowledgeを習得してください。もしそういう機会が無いのであれば、Wake Turbulenceが原因での事故例をリサーチして教官と議論してください。経験の浅さは知識でカバーすることもできます。
昔私が訓練していた頃のある教官の武勇伝で、セスナ150という2名乗りの小型機でロスアンゼルス国際空港に最終進入中、大型機のウェイクに巻き込まれて、ちょうど1回転して着陸したという、まるで体操の難度Gをやってのけたという話を聞いたこともありますが、正直今でも疑っています。
Land and Hold Short Operation (LAHSO) --- 滑走路に着陸した後にある地点までには止まっておかなければ、他機と衝突の危険がある場合に管制官から指示される運航方式です。
この図の場合、右下から左上に向かって着陸した飛行機は交差する滑走路の手前で停止することという指示です。実は次回取り上げるRunway Incursionにも関連してくるのですが、この指示を守らなかったり、または守れなかったりすると衝突の危険が生じます。衝突には至らなかったというケースでも「重大なインシデント」として調査の対象になる大事なことなのです。
滑走路が1本しかない場所でも実は似たような指示を受けることがあります。例えば通常使用する誘導路には飛行機がいるためその1つまたは2つ手前で滑走路から出るように指示を受けたとします。自分の機体の着陸距離と滑走路末端からその誘導路までの距離を考えてみる必要がありますね。小型機の場合はほとんど問題ないのですが、試験の時にはあえてハードルを上げることもあります。フラップが使えないとか、滑走路末端付近は工事中で最初の2000フィートは使えない、など、そうするとフラップが使えないときに着陸距離、実際に使える滑走路の距離、着陸してから誘導路までの距離などなどを考えているのかという点です。
このSpecial Emphasis Areasは自家用操縦士のPTSには11あります。これまで6つ見てきました。
続きはまた
たまなは
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