2010年12月12日

とりあえずやってみる

飛行教官を始めてから何年も経ちますが、教える立場になって、逆にどう学べばいいか、ということを深く考えるようになった気がします。それはすなわち、訓練生にこう学んで欲しい、ということの裏返しですが、これは自分が再び訓練生の立場になった時に非常に大きな効果を発揮します。人呼んで「プロ学生」。

新しいことをやろうとする時に、何かうまくいかない、指導者の言っていることがおかしい、などなどと思うことが多々ありますが、自分と異なる感覚を習得する過程は、多少なりとも苦痛を伴うもの。こうした苦痛を和らげるのも指導者(教官)の役目ではあるのですが、指導者も時にこの点を忘れがちです。そこで「プロ学生」は、「こいつの言うことを聞いて、とりあえずやってみよう」と考えます。最初はうまくいきませんが、そのうち自分なりの感覚をつかむようになり、さらには指導者の言葉足らずなところも自分で補いながら、最終的に目標とする形に持っていくようになります。

ここで「プロ学生」が重視するポイントは、指導者に気持ちよく指導してもらう、ということ。指導者の中には、明らかにトンチンカンなことを言う人間もいます。こんな指導者の言うことはあまり聞きたくないのが人情。ですが、「プロ学生」はこの指導者が明らかにおかしなことを言っているのが分かっているので、とりあえずその場は言われた通りに流しながら、後で本来正しいと思われる方法で課題を処理してしまいます。不思議なことに、指導者と「プロ学生」の目標とする場所は実は同じだったりするので、学生が自分なりの方法でたどり着いた結果を見た指導者は、それが自分が教えた結果だと思い、大変気分良くなります。結果が良好な時は、えてして指導者と学生の関係も良好に保たれるもの。学生の個人的な感情はとりあえず置いておきます。そこが「プロ学生」のプロたる所以です。

ある分野で一つの頂点を極めた人でも、別の分野については新たにやり直す必要があることもあります。大型機や音速機を飛ばしているパイロットと飛ぶことがありますが、それらの機体の感覚をそのまま単発プロペラ機に持ってくるパイロットは、ほぼ例外なく惨憺たる結果を経験します。その後こちらの助言に素直に耳を傾け、次回には見事に修正してしまうパイロットは実はあまり多くないのですが(最終的には修正されるものの)、そんな人達には、同じ職業人として素直に敬意を表したくなります。そして、それらの人達こそ真のプロフェッショナルとして、自分の目標にしようと思うのです。

飛行という未知の世界に足を踏み出す時に、こうした心構えが何かの参考になればと思います。

(Ichi)


同じカテゴリー(飛行機小話)の記事
電気飛行機
電気飛行機(2013-06-20 06:33)

横風着陸
横風着陸(2012-07-05 10:04)

飛行機動画
飛行機動画(2012-06-18 09:30)

獣物の腹?!
獣物の腹?!(2012-05-16 11:58)


 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。